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◇ 歯科技工教育学士課程移行記念特別座談会
“「4大化」によって現場はどう変わるのか?”

 

II 現場の歯科技工との関わり

 
佐野 ところで「ものづくりの視点」というのも歯科技工が持つ特性だと思うのですが、4大化との関わり合いというのはあるのでしょうか?

マネジメントスタイルの三角形 山口 ここに「モノヅクリ」の視座としてクラフト、アート、サイエンスの3つの要点を挙げて考えてみたいと思います。クラフトというのは、例えば鋳造を失敗したから今度はこう改善してみるというような過去の経験に基づく「モノヅクリ」の考え方であり、アートというのは審美に代表される芸術的あるいは直感的な感性に基づく「モノヅクリ」の考え方、それからサイエンスというのは、新材料・新機械または分析・分類に基づく「モノヅクリ」の考え方です。これら3つの視座の中で作り手各々で得手不得手はあるかと思いますが、その3つを総合的に考える能力も必要と考えています。

池田 一つの視座に捉われないという点では、学部の教育方針と一致すると思います。

山口 社会的背景も影響してこれらには循環性があると感じていますが、円を描くような2次元的な循環ではなく、各ステップを習得した者がそれを踏まえたうえで次の段階に進んでいく、つまり螺旋を描くようにですね。例えばデジタル時代に突入して今はサイエンスの分野が隆盛ですが、メーカー指示通りの一辺倒から、やがて経験に立脚したデータやプログラムの扱いをすることで、例えば「適合の向上」や「目的の咬合付与」を可能にするといったクラフトの見方が再び着目されてくると思います。

佐野 石松さんはIDS(ドイツのデンタルショー)にも行かれてますがいかがでしょうか?

石松 今はCAD/CAMの進歩はものすごく早くて、本当に日進月歩という感じです。サイエンスという意味でいえば今まで人間が手作業でやっていたものを機械に置き換えて大量生産でき、なおかつ精度が高いという時代になってきています。その技術の上にどんな付加価値をつけていくかというのが、これからの歯科技工のスタイルだと思いますし、先ほど言われたクラフト、アートというものを繋げて考えなくてはいけないと思っています。

吉澤 しょせん、機械というのはエバンスやエンジンと同じような道具ですから、それをその延長線上にどう使いこなすかということが重要です。つまり「何で作ったか」より「何を作ったか」の方が大事だということ。そして歯科医師にその特性を理解していただき、コーディネートできる能力がないと新しい症例はやれないわけですね。そのためには前段階の準備とか構築がむしろ大切になってくるわけで、どういう治療の上に成り立った補綴かを考えられる能力も必要になってきます。大学の中でCAD/CAM が日常的になっていくのであれば、そういうことを勉強していくと違う希望も生まれてくると思いますね。

石松 どういう材料を使うか、使えばどうなるか、同じような症例をやっていてもその考え方で全然違うものが出来上がるわけです。昔パーシャルは症例毎の特性が加味されてとても面白かったんですね。今はCAD/CAMを使って、同じインプラントに対しても様々なストラクチャーが作れるという時代であり、そこは同じように興味深い。考え方を上手にコーディネートすることによって付加価値につながってくると思います。

吉澤 今の話を聞くと、やはり石松さんはそこに至るまでに知識と経験がベースになっているように思います。はじめに細部の付加価値を考えるのではなく、学生さんにはまず基本となる考える力を養って欲しい。とかく今はマニュアル通りという若者が多いから。そういう点では、審美の分野も同じように付加価値が先行していて、歯科雑誌などのメディアでもそれが大きくクローズアップされているわけですけれども、基本は生体に害を及ぼす危険がある適合や咬合が第一優先であることを忘れてはいけません。色はメンタル面を除き生体に悪さをしないでしょう。

山口 歯の色に限らず現在は歯肉のマネジメントも含めて審美が完結するというのが当たり前になってきていますが、やはり適合・咬合の土台あっての審美ですよね。

吉澤 歯肉や骨など歯周のことを考えると、レントゲンの読み方はこれから必要だよね。

佐野 そうしたことを吉澤さんはどういう風に勉強されたんですか?

吉澤 まずは本から得た知識でしょうか。講演会にも多く出席しました。そして現場での積み重ね、歯科医院の女性スタッフとも仲良くなりました(笑)

池田 そういうところは大学のカリキュラムに入れております。衛生士さんや歯科医師とコミュニケーションがとれて当然というような(笑)

山口 技工士はどうしてもスタート地点というのが印象採得だったり咬合採得、もしくはプロビジョナルだったりするわけですが、初診とはいわないまでも補綴に入る前の治療過程のどの地点で携わっていくのかということも勉強していく必要はあるでしょうね。

吉澤 私は学校で非常勤講師として審美のことを教えていますが、何を伝えたいかというと技工士という仕事の面白さ、ものづくりのこだわりや細かさ、クラフト的な部分を多く教えるためにやっています。患者さんのためのやりがいとか、生きがいというのはその先にあると思うのです。現場に出ると、やっぱり原点はまず作れるということが大事ですからね。

佐野 教育の一つとして技術の中にある感性、例えば色彩感覚などは代表的なものですが、人に感性を伝えるためには何が必要でしょうか。

山口 うちも歴代スタッフがいて適合や咬合というのは言葉を介して伝えることは出来るんですけども、色のような感性を伝達するのは非常に難しいですよね。

吉澤 とにかくよく観察させる。生の患者さんを見させる。自分でイメージしてスケッチし、良かれと思って作った物を口腔内で見てみて、あれ?こんなんじゃなかったということをフィードバックしていくことの繰り返し。感性といえどもやはり経験値を高くしないと。

佐野 クラフト的な試行錯誤が無ければ感性は育つことが無いと?

吉澤 天性で持ってる人はいると思います。でもそうでない人はトレーニングが必要ですし、それによってあるレベルまでは上がるものです。ただ、その道のスペシャリストは全体の質の底上げに欠かせませんが、そのレベルが万人に必要かというと現実的にはどうでしょうか…。

山口 経験には「踏まなければならない」ものと「踏まえて進む」ものに分けられることでしょう。前者ではベーシックな知識から身につけ、経験を重ね、そこから傾向を分析し分類することができる能力もやはり必要になってくると思います。症例そのものもドクターと一緒になって分析できることが必要でしょう。同時に、後者としては、現場の歯科技工士が持つたくさんの経験を教育にフィードバックできるようなシステムも必要なんだろうなと思いますね。

池田 考える力をつけてもらうために、おそらく今まで技工士学校の教育にはなかった自己問題提起や解決、そういった授業もあるのでそこで培ってもらいたいとも考えています。

石松 それはどういった授業ですか?

池田 PBLという数人のグループでディスカッションする授業があります。「患者さんが来院されてこういう訴えがありました、あなたならどうしますか?」というような問題を出題し、まったくの初心者である一年生に考えさせるんですね。まず1回目は今までの経験に基づく知識で討論、2回目はインターネットなども駆使して様々な対応、解決策を調べてきてもらい討論。我々教員はグループ討論には加わらず、ミスリードしそうな場合のみ、キャパシティーの中に誘導します。そうした授業で問題解決の能力を養っていきます。

吉澤 今年の大学入試でインターネットを使って試験問題に回答した事件がありましたね? 勿論、個人の資質を問うという意味の入試ですからとんでもない話ですが、問題解決の方策に「個人の独見」よりも「多数の知見」が望まれるとき、見方によっては今の時代のニーズに合っていて、ある人はこういう感性が必要なこともあると言った人がいたのを思い出しました。

佐野 これからビジョンを変えていくためにはいろいろな発想の仕方も必要だという意味ですね。

山口 話は少し変わりますが、技工士学校の大学化で大きなメリットとして考えたときに、例えば建築士でいうところの「Ⅰ級」「Ⅱ級」という考え方の検討はあったんでしょうか? もちろん生体に対する教育をきちんと踏まえた上での、前者であれば患者さんに触れることが出来る技工士の育成というような。

池田 数年前からそういう話はあるにはあったのですが…。法律とか難しい問題がありますけれど、咬合採得や光学印象など不可逆的な侵襲を伴わないことは歯科技工もできるようになって欲しいですね。患者さんにとって何が一番良いのかを考えながら、実質的にそれが望ましいという社会的認知の気運も高まれば方向としてありうるでしょうか。

吉澤 4年制だろうが2年制だろうが、医科歯科が他と違うのは患者さんが近くにいるということですよね。医療人としての認識を自覚しやすい。そういう環境にあるという基盤を次につなげて欲しいですね。

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